いろいろと立つ

 そこそこショックを受けつつ3日間をSCUで過ごした私は、金曜の昼に一般病棟に移り、3日ぶりに座りました。お昼ご飯が運ばれて来ました。確かスパゲティのミートソースがこってりと盛られていたと思いますが、流石に食べる気にならずパス。


 その朝のことですが、SCUのベッドで目覚めると、男の大事なところが無駄に大きくなっていました。別にいやらしいことを考えたとか。セクシーなナースが居たとかそんな事ではありません。私は小さくガッツポーズです。小さな疑問だったんですよ。半身まひって場合はどんな風になっちゃうのだろうと。朝の回診に来たDr.にやや自慢げにそのことを話すと
「あー、そこは神経系統が違うんですよ」
と実にあっさり「どうでもいいわ」的にあしらわれてしまいました。


 女性には理解できないかと思われますが、男の機能としては譲れないものの一つです。ま、でも確かにどうでもいいのですが。


 一般病棟に移り、その日から私は自分に一つのルールを課しました。
「朝起きて消灯まではベッドに入らない」
ということです。昼間ですから、普通なら起き働いているわけです。普通ではないですが、自分から病人にならなくても良いじゃないかと思ったのです。病人ですけど。


 ベッドの脇に椅子を置いて、そこに座ってタブレットを触ったりしながら過ごしていたら、リハビリ室のPTが来ました。これから早速リハビリをしましょうと。


 車椅子を押され、リハビリ室に着くとこれもちょいちょい見た光景のリハビリ室が目の前に広がります。私は長年医療業界で働いてきましたが、リハ室なんて入ったことありませんでしたし、そもそも「リハビリ」自体の理解がふわっとしていました。


 簡易的な装具を着け、平行棒の間で「立てますか?」とPTに促され立ってみました。普通に立てました。「歩いてみましょう」と言われロボットみたいに歩きました。私は左側の脳梗塞ですので右片麻痺です。なんだか右だけ竹馬の上に乗っているような感覚です。でも悪くないなと思いました。この時、私は実に勝手に、実に楽観的に
「俺は戻せる」
と思い込みました。何の根拠もありませんがそう思いました。


そう思いながら、どこか現実味を感じず、実に客観的な自分もいました。上手く歩けないことも悲しいという感情より「へ~!」という驚きの方が大きかったです。「うわっ!俺こんなこともできないのか!」とか、「スリッパ履くってハードル高い」とか、出来なくなった事の嘆きより、何気ない行動がけっこう高度だったりすることに驚きました。


この日から驚きと発見の私のリハビリ生活がスタートしました。