停滞期からの急な機能向上

 リハビリで私を悩ませたのは回復の「プラトー」の時期です。一日一日が大きく良い方向に変化しているという感覚で、毎日のリハビリも一所懸命に頑張っていましたが、ある時から何の変化も感じない日が続いたのです。


 発症から絶対安静の寝たきり、ようやく起きあがり運動を始める。0から1、1から2と伸びが倍々に増えるのはある意味当たり前で、どんなにやっても20も30もステップが上になる事はありませんから、累積の分母が大きくなるほど1ステップの伸びは相対的に小さくなる。ま、その理論はわかりますが、うんともすんとも言わないくらい変化が起こってくれない時期が来ます。こいつがいわゆるプラトーです。


 私は普段、娘たちに
「昨日出来た事が今日出来ないなんて、今日生きなかったのと同じだわ」とか
「昨日より今日の方が進化していないなんてありえない」
などと、大口を叩いておりましたし、そう生きたいと思って生きてきました。娘たちにも植え付けておりました。


 そんな自分が、昨日と変わらない、一昨日と変わらない、これは私にとっては耐えられない出来事でした。特に8月2週目に起こったそれは正に屈辱的な日々でした。以前も書きましたが、私は自分で身体の様子を感じる事、身体を捉える事が得意だと思っていました。ところがどのPTさんの介入をしてもらっても何にも感じないのです。


 この何も感じない時期は、付いてくれたPT、OTの方々に本当に申し訳なく思いました。私の入院していた病院は20代~30代前半くらいのセラピストが多く、皆さん意欲があり、熱心でした。介入の前に色々調べたり準備をしながらリハビリをしてくれる事もわかっていたので自分のふがいない身体のせいで、彼らの大事な時間も無駄にしてしまうような気がしてしまうのです。私が謝ると、皆さん気にしないでくださいと言ってくれました。(まぁ患者ですから。)自分自身がイラつくというより、自分に関わってくれる人々に対して申し訳なく、きつい時期でした。


 リハビリは自分のものです。自分の身体です。にもかかわらず、今や担当してくれているPTやOTの方の作品みたいな、何というか共同作業で作り上げている感じがしてたのです。


そんな時、たまたま介入してくれたPTさんに教えて頂いたやり方で突然「ぴょん」と数ステップ段階が上がったのです。それも唐突に。担当のPTさんが休みの日だったと思います。翌日彼が病室に来た時に「こんな風に出来るようになっちゃった」と見せたら、「あ!」と言ってなんとも言えない空気になりました。でもこういう風な、停滞時期の後の急な伸びみたいなものを繰り返すのだと教えてくれました。


 食事の時に同じテーブルのKさんが週末外泊をするとの事で、何をしたいとかそんな話題になりました。別に何がしたい訳でもないけど家に帰ってみたいと思いました。夏だからと言って何もないし。毎年家族を連れて数日間海に行くのが恒例行事でした。次の夏はそんなこと出来るようになっているだろうか。